2018年9月上旬、夏休みを利用して4泊5日の一人旅をしました。当初は京都の伊根に行って舟屋に泊まる予定でしたが、初日に台風21号が日本を縦断し、大垣駅で電車がなくなり漫画喫茶で一夜を明かしました(1日目の記事はこちら)。2日目は予定を変更して滋賀県長浜に行き、三谷旅館に宿泊します。
大垣駅から長浜駅へ
大垣駅のホームで電車を待つこと1時間半、米原行の電車がやって来て、ようやく冷房の利いた電車で一息つきます。大垣駅から35分ほど電車に乗り、長浜駅に向かいます。大垣-米原間の車窓はいい景色で、田んぼと山が続く長閑な田舎の景色を楽しむことができました。特に関ヶ原と柏原の間の景色は良かったです。
11時過ぎに米原駅に降りると、ホームには新幹線を待つ長蛇の列があります。改札を出ても人が沢山います。掲示板を見みると長浜方面の電車がありません。京都方面もありません。京都・岐阜・敦賀の中継地点となる米原では、北に行く電車も西に行く電車もなく、沢山の人が立ち往生してしまっています。
改札では駅員さんが乗客の対応に追われています。改札から入って来る人とホームから改札に出る人との両方から、電車はないのか、どうなっているのかと、受け答えに忙殺されています。ホームも駅構内も改札もどこも人だらけです。
米原駅から長浜駅までは2駅。距離にして10km、2時間の道のりなので歩いていけないこともありません。歩けば電車では発見できなかったお店や景色に出会えるので、それもいいのですが、2時間待てばバスで移動できるので、そうすることにしました。
体調が万全なら間違いなく歩いていたのですが、寝不足と腰痛が気になり弱気でした。タクシーは既に5人ほど並んでいますが、一向に来ません。30分に1台来たとしても、2時間半以上は待つことになるので、バスで移動しました。
大垣駅の混雑振りや米原駅の混雑振りなども写真を撮っておけばよかったのですが、なぜだかそんな気になれず撮りませんでした。バスを待っている間、台風の被害を調べると京都の渡月橋が強風でなぎ倒されていました。
バス乗場のベンチで2時間ほどのんびりと過ごし、12:59のバスで長浜駅に向かいます。乗車時間30分、運賃400円くらいでした。米原駅を出て琵琶湖の方に進むと窓から平地に広がる田んぼが見えます。片方では琵琶湖が見え、もう片方では田んぼと山々が見えいい景色です。青空の下に山々が並び、その麓に瓦屋根の家々が並び、その下に田んぼが広がっているのです。
長浜商店街周辺を散策
13:30に長浜駅に着き(電車は再開していました)、今晩泊まる三谷旅館に向かいます。歩いて10分もかからない距離です。
ここも大垣のように瓦屋根の昔の家が残されています。昔の町並みの景観を保存しているようです。
駅の近くにある、金物屋あん藤。
江戸時代の蔵のような造りの建物です。
こちらは民家。
瓦屋根に玄関の引戸に植木鉢に2階の横長の窓に物干し竿にと、こういう家に住んでみたいと思ってしまいます。
奥にあるのが長浜商店街。
この辺りのことは記事の後半に書きます。
美味しそうな食事処や良さそうなお土産屋があり、観光地としてもいい場所です。
そして今晩お世話になる三谷旅館。
大体この辺りの場所になります。
奥には大通寺の三門が見えます。
三谷旅館
チェックインは15時からでまだ1時間以上あるので荷物を置かせてもらいに行ったら、女将さんのご厚意で部屋に上がらせてくれました。
かなり疲れていたので大変助かりました。
1泊2食付で7,800円。ちょうどいい広さの畳の和室で、縁側もあります。
ほっとして畳の上で横になっていたら、いつの間にか寝てしまい、ご主人がお風呂の案内に来てくれ、目を覚まします。宿に泊れた安堵感からでしょうか、椅子に座ってシャワーを浴びるだけで何ともいえない気持ちよさでした。湯船も全身の疲れが無くなるほどの気持ちよさで、言葉になりませんでした。
昨日のような体験をすると、湯船に浸かれる幸せ、電気水道ガスのある普段の生活の有難みを実感します。部屋に戻って天井を眺めながらぼんやりしていると、いつの間にかまた眠ってしまい、18時に夕飯の声がかかり、食事処に案内されます。
食事は個室ではなかったのですが、実は一人で宿に泊まって食事を頼むのは初めてで、写真を撮るのを遠慮してしまい、一枚しか撮りませんでした。
真ん中の小鉢にある三角形の赤いものは、赤こんにゃくといって滋賀県近江八幡市の特産品として知られています。三二酸化鉄(さんにさんかてつ)という食品添加物で赤色に染められているのですが、赤色にした理由は諸説ありますが、織田信長や豊臣秀吉の時代から赤く色づけされてきた歴史のあるもののようです。
赤こんにゃくの上の白い小鉢に入っている小魚は、ワカサギの酢漬けです。これとは別にワカサギの天ぷらもいただきましたが、ワカサギは最近琵琶湖で穫れるようになったようです。もう少しシーズンが早ければ例年鮎の天ぷらを出しているそうです。琵琶湖の鮎は10cmよりも大きくならないため、天ぷらか佃煮にして食べるのだとご主人がおっしゃっていました。
その隣の刺身のオレンジ色のは、琵琶湖で獲れたマスの刺身です。ビワマスという名前ですがサケ科に属するためビワサーモンとも呼ばれるそうです。脂ののった美味しい刺身でした。
食事をいただきながら、ご主人と女将さんから長浜のことをいろいろと聞くことができました。長浜という土地は、当時今浜と呼ばれていた土地を豊臣秀吉が長浜と名付け今に至るのですが、浅井の下で商売をしていた商人を呼び寄せて楽市楽座を開いた当時の土地が、戦時中に空襲を受けなかったために今日も残っているとのことです。
また、宿の裏に大通寺というお寺がありますが、これは城の屋根を移転させたために柱が円くはなく四角くなっていて変わっている、ということも教えてもらいました。いろいろと勉強になりました。楽天トラベルの口コミで宿のことが知れるので、興味のある人は見てみてください。
楽天トラベル:三谷旅館夜の長浜商店街を散歩
食事の後はサンダルをお借りして外を散歩します。
宿の裏にある大通寺を覗いてみます。
夜は夜で雰囲気のあるいい参道です。
秀吉の馬印で有名な瓢箪
台風の影響でしょうか。通りは人がほとんどいなくて、とても静かです。
裏道
路地裏
三谷旅館
旅館も雰囲気のある建物で、外観がいいです。
部屋に戻ってくつろぎます。外は静かで縁側からは虫の声が聞こえます。テレビを点けずネットも見ず、のんびりとしながら2日目の旅を終えます。
6:00に起きてテレビを点けると、北海道で起きた地震の報道しています。明け方3時過ぎに震度7の地震が起き、札幌では大規模な停電が起きていました。電車も運休していて、厚真町という所では大規模な土砂崩れが起きているとテレビで流れています。
一昨日の台風といい今朝の地震といい、立て続けに大変なことが各地で起きています。8時に朝食を食べ(写真を撮りませんでした)、部屋でゆっくりして10時に宿を出ます。
今日はこれから静岡に行って、ビジネスホテルでゆっくりします。長浜駅に戻る間に写真を撮りながらゆっくり駅に向かいます。
長浜の地について
台風に遭わなければ寄ることのなかった長浜に泊まったのも、何かの縁でしょう。
せっかくなので、長浜の町について調べて知ったことを書いておきます。
長浜の町は豊臣秀吉が城持ちの大名になって初めて開いた城下町として知られています。秀吉は長浜の町を朱印地(免税地)に定め、また江戸時代の彦根藩の時も朱印地として認めたので、経済が盛んになりました。
長浜はかつてから交通の要衝であり経済や産業が発達する場所だったため、それぞれの時代で大事に扱われてきた町です。陸路・水路が発達して多くの商人が行き来し、各地からの特産品に触れることで、次第に様々な文化や産業が発達しました。18世紀半ばからは織物業が盛んになったそうです。
観光スポットである黒壁スクエア周辺には、お土産屋や食事処が集まっています。江戸時代から明治時代の和風建築が残る町並みで、雰囲気のいい通りです。アーケードのある大手門通りという商店街では和菓子屋やパン屋があり、食べ歩きに人気の場所のようです。
商店街には曳山博物館や海洋堂フィギュアミュージアムがあります。曳山というのは、祭りに使われる山車(だし)のことで、江戸時代の伝統工芸を用いた飾金具や彫刻、絵画で彩られた車のことです。
毎年4月9日から17日の間、長浜曳山祭が開催され曳山が町の中を通りますが、これは長浜の町を育てた豊臣秀吉が、源義家の武者行列を模した「太刀渡り」という行事を行ったことから受け継がれるようになったようです。曳山博物館では、次の年の祭りに出場する本物の曳山を4基収蔵しており、そのうちの2基を観ることができるようです。
お大手門通りの反対側。長浜駅寄りの入口になります。
写真に収めたくなる建物が並ぶのは、黒壁スクエアです。
この辺りの24館の一角が黒壁スクエアと呼ばれていますが、1900年に建てられた銀行の壁が黒漆喰だったことに由来しているようです。
お土産屋や食事処が充実していて、景観のいい観光地ですが、西日本最大のガラス芸術の展示エリアとしても知られているようです。ガラスのお店が多く、ガラス細工の工房やオブジェのある場所として知られています。
長浜はガラスの町としても知られていますが、歴史的背景が特にある訳ではないようです。観光客が集まりそうだからという理由でガラス事業が盛んになったといわれていますが、それなりの背景はあったのではないかと思います。
戦国時代には長浜でビードロが作られていたといわれていますし、明治時代にガラス事業が始まったともいわれています。長浜には中世から「近江商人」が活躍して新しいものを積極的に取り入れる習慣があったので、南蛮文化にしろ西洋文化にしろ、近江商人が海外の新しいものを率先して事業を起こしたのではないか、なんて思います。
お墓のあるお寺
武者隠れ道
武者が隠れられるように民家が凸凹に造られているようですが、他の街道には見られない造りのようです。
油甚というお店でお土産にごま油を買いましたが、評判がよかったです(「ごま三兄弟」という3種類のごま油の食べ比べセットです)。お店のホームページを見てみると、胡麻を煎らずに生のまま搾っているので、無臭でありながらもごま油特有の味わいが生きているのが、このお店の特徴だそうです。焙煎して胡麻の香りを全面的に出しているごま油とは違った味わいを楽しめるようです。
このお店は創業100年以上のお店らしいのですが、店内に入って驚いたことに、床の下に壺がありそこに油を保管しているのです。ご主人に聞いたところ、地元の人にはこの壷から取った油を量り売りしているということでした。地元の人は瓶などの容器を持って行って、壷から油を分けてもらうのです。
宿の近くには大通寺という、真宗大谷派(東本願寺派)のお寺があります。浄土真宗ではご朱印がないので有名ですが、御朱印ブームが起きてからは代わりに「法語」というものを朱印帳に書いてくれるようになったようです。知っていれば参拝していただいてきたのですが、この時は知りませんでした。
また、拝観料500円を払えば、本堂と大広間に入ることができるようです。本堂と大広間は渡り廊下で繋がれていて、沿った廊下を歩くこともできるようですね。
黒壁スクエアの翼果楼(よかろう)というお店。
このお店も旅の後から知りましたが、長浜のご当地になっている「鯖そうめん」で有名なお店です。炭火で焼いた肉厚の焼き鯖がそうめんに入っているのですが、鯖のうまみがそうめんに染みわたり、多くの観光客から人気の名物になっているようです。知っていれば食べたのですが、残念です。
きむら。鮎料理のお店です。右隣はせんなり亭 橙。近江牛のお店です。
店内には鮎の姿煮の佃煮などがあるそうです。ちょっとしたイートインスペースがあり、買った商品を店内で食べることもできるようです。
のぼり旗に鮒寿し(ふなずし)と書かれていますが、琵琶湖周辺ではこれも有名な食べものです。琵琶湖でとれるフナ(主に卵を持ったニゴロブナのメスを使うのが一般的)を塩漬けにし、ごはんと交互に重ね、数カ月、長いものだと約2年もの間、時間をかけて漬け込んで発酵させたものです。
鮒ずしは癖があり苦手な人が多いと聞きますが、時間をかけて丁寧に作られたものは美味といいます。大通寺の近くに住茂登(すみもと)というお店があるのですが、ここでは代々伝わる鮒ずしを食べることができるそうです。
使う材料は鮒・米・塩のみで、現代では稀になった木桶仕込みの臭みのない鮒ずしが看板メニューのようです。長浜の冬の郷土料理である「鴨鍋」や、夏の琵琶湖天然うなぎ、ビワマスなども提供しているので、是非とも一度お邪魔したいお店です。
他にも、茂美志や(もみじや)というお店でも湖北料理が味わえるのですが、ここでは「のっぺいうどん」が名物です。長浜市で明治時代から食べられている料理で、しいたけ、湯葉、麩、かまぼこ等の具を、出汁汁と土しょうがで煮詰めたあとに、片栗粉や葛粉でとろみをつけた「あんかけ」をうどんにかけたものです。このお店も黒壁スクエアにあります。鮒寿しや豆腐田楽、夏期には湖魚料理のビワマスの漬け丼、冬期には天然真鴨の鴨なべなども、ここでいただけるようです。
旅の予定が変更したこともあり、行った時にはこうしたことを知らずに食べる機会がありませんでしたが、調べてみると興味のある食べものがいろいろとあります。
琵琶湖周辺では、琵琶湖だけに昔から生息する「ビワマス」が有名ですが、ビワマスは特に水深が深い長浜を中心とした北湖に多く棲んでいるようです。刺身、塩焼、煮付、味噌煮、天麩羅などにして、長浜では長いあいだ食べられてきました。
また、長浜市南浜町には、鮒を使った「味噌蒸し」「早寿司」「コケラズシ」「コモ巻」などといった特有の調理法もあります。他にも川エビと大豆を煮た「えび豆」、寒い冬にはうなぎを使った郷土料理「うなぎのじゅんじゅん」鍋もあります。
長浜の食の歴史を調べていたら、鴨すきや鴨なべもちょくちょく見かけました。鴨も長浜地域の郷土料理で、古くは冬場に越冬のために琵琶湖を訪れるカモを捕まえて食べたから、この地に馴染みのある料理になっているようです。
個人的にはそれほど興味がなく、馴染みのない土地でしたが、立ち寄ったおかげでいろいろなことを知ることができました。
黒壁スクエア周辺を紹介しましたが、長浜駅の反対側には琵琶湖や長浜城があります。長浜城には歴史博物館や慶雲館(けいうんかん)という日本庭園のある迎賓館もあります。歴史や食に興味のある人は、1泊して長浜を観光するのも面白いと思います。
さて、10時半前に長浜駅に到着します。
10:29の姫路行の電車で米原まで行き、米原で乗り換えて大垣→豊橋→浜松→静岡へと向かいます。
長浜から米原は十数分。あっという間に移動します。昨日あれだけ苦労して移動したのに、あまりの移動時間の短さに、何ともいえない思いです。
次回に続く
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