2018年9月上旬、夏休みを利用して4泊5日の旅をしました。旅の4日目は山梨県早川町にある赤沢宿という集落に行き一泊しました。赤沢集落には江戸時代から七面山という霊場に参詣する人々を迎え入れてきた講中宿の町並みが残っています。
江戸時代に造られた築180年を超える講中宿をリノベーションしたゲストハウスに泊まり、自然豊かな山奥でのんびりと過ごしました。
6時に静岡駅の近くにあるビジネスホテル くれたけインプレミアムで目を覚まします。今日は山梨県の身延駅から離れた山奥にある赤沢宿という昔の家が残る場所に行きます。大阪屋というゲストハウスに一泊して、のんびりしたいと思います。
前回の旅の3日目の記事からの続きとなります。
静岡駅から赤沢宿へ
9時にビジネスホテルくれたけインプレミアムをチェックアウトして静岡駅へ。これから山梨県の赤沢宿に向かいます。
9:07の電車で静岡駅を出発し身延駅に向かいます。9:41に富士駅に着き、身延線に乗り換えます。
10:20の発車まで40分ほど富士駅で待つことになります。乗り換えがスムーズにいかないのも青春18きっぷならではの旅です。
10:20に富士駅を出発し1時間10分電車に乗り、身延駅に向かいます。進行方向の甲府に向かって右に山がそびえ、手前には住宅街が見えますが、景色はあまりよくないです。
富士川を見ながら進みます。富士川は日本三大急流の一つとして知られる暴れ川で、途中停まる芝川駅には釜口峡という名所があります。ここは富士川の中でも舟で渡るには危険な場所で、旅人から恐れられた場所として知られています。
富士川を眺めながらぼんやりしていると、11:33に身延駅に着きました。
身延駅から赤沢宿へはバスでの移動となりますが、バスは2時間後なので駅周辺をぶらぶらして時間を潰します。
当初の予定では、駅から歩いて20分の距離にある身延竹炭企業組合の売店に行くつもりでした。身延町では竹炭が町の特産品として知られていて(湯葉と干し椎茸も有名です)、町内の定年退職者が作った竹炭やその加工品がそこで販売されているのです。いい機会なので竹炭について何か知れたらと思い行こうと思っていたのですが、ホテルの朝食ビュッフェを食べ過ぎてしまいお腹が痛くなってしまったので、断念しました。
富士川沿いを散歩しながらバスが来るのを待ちます。駅から少し離れた場所に雑貨屋とコンビニくらいの大きさスーパーがあります。お店までの道には旅館が数軒あり、駅の近くには24時まで営業しているコインランドリーもあり、結構宿泊施設があるようです。身延山に参詣する人用でしょうか。
身延駅でしばらく待ち、13:45のバスで赤沢宿に向かいます。
早川町乗合バスという写真のハイエースのようなものに乗り、奈良田温泉方面行のバスに乗り、七面山登山口で降車します。料金は身延駅からは600円、プラス登山用の大きなリュックを持っている場合は200円です。
バスに乗ると運転手さんに行先を聞かれ、答えるとそれをメモに書いています。運転席の後ろにはプラスチックの料金箱が置いてあり、そこに運賃を入れるシステムのようです。後から地元の学生が4人ほど乗り込んできて、運転手さんが「君は○○までだっけ。君は○○でよかったっけ」と降りる場所を確認しています。
身延駅を出発して富士川沿いに走り、下部温泉という駅を経由して奈良田温泉方面に向かいます。身延駅から自分と4人の学生が乗ったきり、誰も乗車することもなく、バス停に停まることなく進んでいき、途中下部温泉で数分停まり、また進んでいきます。
バスには早川町の観光ポスターが貼ってあり、「人口の一番少ない町」「世界最古の温泉宿のある西山温泉」「特産品は雨畑硯」といったことが書かれています。これから向かう赤沢宿は、早川町という場所なのですが、山梨県の西部の静岡県に隣接する奥山梨という所に位置します。
西山温泉にもバスは停まりますが、そこには慶雲館という旅館があり、その旅館が世界最古の温泉旅館なのだそうです。ギネス認定されている世界最古の温泉宿で、飛鳥時代の慶雲2年(705年)に藤原鎌足の長男真人が開湯したという伝承があります。
身延駅から50分ほどバスに乗り、七面登山口・赤沢入口で降ります。普段乗らない者がバスに混ざっていたからでしょう、運転手さんが気づかず通過したので慌てて声をかけて道の途中で下ろしてもらい、バス停にやってきました。
4人の学生さんの降りる所はまだ先のようです。ということは、毎日往復2時間近くもバスに乗って通学している訳で、その様子を目の当たりにして大分田舎まで来たんだなという実感が湧いてきました。
バス停七面山登山口から赤沢宿へ
バス停からは、奥に見える橋を渡って赤沢宿に向かいます。
バス停に書かれている七面山(1989m)というのは、日蓮宗の聖地とされる場所で多くの人が参拝する山です。山頂付近の標高1700mの所には敬慎院という宿坊があり、そこに宿泊する人が多いようです。登山道の途中にも「~坊」という信者の宿泊所となる宿坊があるようです。七面山の山頂ではダイヤモンド富士を観れたり雲海を観ることができるようにで、宿坊に泊まって朝日を見る登山客も多いようです。
これから向かう赤沢宿という場所も日蓮宗や七面山と関係の深い所です。日蓮宗の信者や旅人が七面山に参拝する前に宿泊した宿が赤沢宿なのです。
橋の左手の景色。春木川を渡りますがこの川は写真奥の早川に合流します。早川は富士川に合流します。
橋の右手。春木川です。この川沿いを上っていきます。前日の台風の影響でしょうか、水が濁っています。
橋を渡ると赤沢宿に向かう一本道に出ます。
舗装された道を上っていきます。
急な坂には見えませんが、傾斜はそれなりにあり歩いていると息が上がってきます。
赤沢宿まで1kmの看板。地図上ではここでようやく半分、折り返しです。まだ10分くらいしか歩いていませんが汗だくで疲れてきました。
さらに歩くこと10分、宿まであと0.5km。10分で0.5kmしか進みません。
日は照っていませんが、9月でも汗で服がびしょびしょになります。なにかのサイトでは歩いて15分~20分と書かれていましたが、まだまだ歩きそうです。
視界が開けてきました。
今晩の宿の表示がありました。
30分以上も坂道を上り、ようやく畑や民家のある所まで来ました。
今晩泊まる大阪屋はこの辺りですが、道にある案内に沿って歩いていきます。左に曲がって上れば宿に着くのですが、案内通り右に曲がってみます。
案内はどうやら駐車場の場所を指しているようです。左を上っていきます。真っ直ぐ行くと七面山の登山口に繋がります。
見えてきました。
宿の裏にある駐車場でした。なんだかんだ40分くらい歩きました。
写真の蔵は赤沢宿の資料館で、昔使われていた生活用品が展示されています。チェックインした後に中に入って見ましたが、この時は電気が点かず見れませんでした。
裏口の奥の白い建物から入って来てしまったので、一旦入り口の門に来ます。
ゲストハウス大阪屋旅館
ここが入り口になります。
木の板の敷かれている所は土足禁止で、その手前で靴を脱ぎます。
ここで声をかけると宿の管理人さんが来て、奥のソファのある部屋に上がります。ここで用紙に氏名や住所を書き、今夜の宿代4,000円を払います(※宿泊料金は2021年現在、6,000円になっています)。
用紙に記入し宿泊代を渡すと設備の説明を一通り受け、今晩のお部屋を案内されます。泊まる部屋は階段を上って2階になります。
入った瞬間、言葉が出ませんでした。
なんとも素晴らしい部屋です。
縁側
部屋にはハンガーと布団、扇風機が用意されています。隣の部屋とは襖で繋がっています。昔の建物の造りなので部屋の鍵もありません。
山奥の建物ですがWi-Fiは繋がっているので、ネット環境には不自由しません。虫が入ってくるので、夜は障子を閉めます。
汗だくだったので、まずはシャワーに入り体を綺麗にします。すっきりしてから散歩の前に縁側で少し横になります。
嗅いだことのある、木の匂いがします。
何の木か分かりませんが、懐かしい匂いがして、癒されます。
縁側の右の奥に見える建物は、赤沢宿で現在唯一営業している旅館の江戸屋旅館です。
この建物は元々講中宿という沢山の参詣者を迎え入れる宿でした。講中宿独特の造りなのでしょうか、2階には縁側が設けらえていて、隣の部屋を行き来することができるようになっています。
縁側に立掛けられているのは留め木と思われます。手前の雨戸は4、5枚重なっていて、夜になるとそれを取り出して雨戸を閉めていきます。雨戸が開かないように留め木を下の溝に入れるためのものと思われます。
隣の部屋
部屋と部屋の間の空間
雨戸の敷いてある縁側
この大阪屋旅館は、身延山から降りて来た参詣客が七面山に登る前に一晩泊まりに来た宿です。江戸時代から次第に参詣客が増え、明治・大正・昭和へとその数を増やしていったそうです。参詣客は「講」を組んで参拝するのが当時は普通だったので、団体客を迎え入れて、グループごとに部屋に泊まらせたようです。
大阪屋は今はゲストハウスで、数人のグループが同じ部屋に泊まり、いろいろなグループが同時に泊まれるようになっています。食材を持ち寄って1階にある調理場を借りて食事を作り、1階の居間で食べながら、他の旅人と交流できる宿になっています。ホームページを見ると宿泊客の8割は外国人観光客のようです。
日が暮れる前に近くを散歩します。
大阪屋の外観はこんな感じになっています。
先ほど寝転がって寛いでいた2階
中にも縁側(内縁というのでしょうか)があります。横長の縁側になっていますが、団体の宿泊客が一斉に靴(当時は草鞋でしょうが)を脱げるように、このように造られているようです。
天井には講中札が貼られています。
食事をしたり他の宿泊客と交流する居間。2階の部屋で物を食べるのは禁止で、ここの居間で食べるよう説明がありました。
軒下に立掛けられている木の板は、板マネギと呼ばれるものです。
宿泊した団体(講中)が自分らの宿泊場所であるという目印に置いていくもので、講中札の一種です。
この板マネギ(講中札)は明治期から使われるようになったものらしく、大正・昭和と時代を追うごとに豪華になりカラフルになっていったようです。
詳しくは、この大阪屋の隣にある清水屋という観光案内所兼休憩所のブログに書かれています。赤沢宿や清水屋のことが書かれていて、歴史や土地のことを知ることができます。
赤沢宿 宿の駅清水屋 (akasawasyukusimizuya.blogspot.com)
夕方の赤沢宿散策
静かな場所です。
たまに軽自動車が通ったり、郵便配達員がカブで通ったりしますが、それ以外は人を見かけません。
異世界にいるようで、なんとも言えない感覚です。
人がいないので少し怖くもあります。
江戸屋旅館
軒下のたばこの看板が時代を感じさせます。
屋根は鉄板葺というものでしょうか。
雰囲気のある石畳
石垣も昔に組まれた貴重なものです。
いろいろ散歩しようと思ったのですが、あまりに人気がなく怖かったので、あまり遠くには行かずに宿に戻ります。
大阪屋の夕暮れ
2階の縁側に戻りました。
目の前は山ですが、その奥には滝があります。
滝の流れる音が聞こえてくるので、全くの無音という訳ではありまん。工事をしているようで、水の音がするのはこの時だけだったのもしれません。
いつの間にか近くの民家から耕運機が
生活感が感じられます。
人気のない部屋で一人静かに、ぼんやりとして過ごします。
隣の部屋にはこんなものも
考え事をするのに、こういう場所もいいものです。
煮詰まったり頭が疲れたら、縁側で横になってぼんやりします。
日が暮れるさまを何も考えずに眺めます。
今までこうした時間を過ごすことはあまりありませんでした。
いろいろと考えさせられます。
彼女と過ごしたり、やりがいのある仕事したり、お金を稼いだりするのとはまた別の幸せが、ここにはあります。
心地よい風を感じ、虫の無く声と遠くから聞こえてくる水の音を聞きながら、日が暮れていく時間を過ごします。
普段とは違う自分がいて、そんな自分が新鮮に感じられます。
昨日とはまた違う、素晴らしい時間を過ごすことができました。
そういえば今日は他に宿泊客が誰もいません。今日も一人合宿になってしまいました。
大型台風が来るからキャンセルがあったのでしょう。この広い空間にいるのは自分だけです。
貸し切り状態なので贅沢な反面、正直怖さもあります。昼に身延駅のスーパーで買ったビールを飲んで、気分を紛らわします。念のために簡単に食べられるものを買いましたが、食欲がないのでリュックに戻しました。
特に食べたかった訳ではありませんが、懐かしさがありカンパンとチップスターを買ってしまいました。チップスターは電車で日本一周をした時によく食べました。どんなに田舎の雑貨屋にもアサヒのスーパードライとチップスターは置いてあり、夏の暑い田舎の駅で数時間電車を待たねばならない時に、よくビールを飲みながら食べたものです。
1階の冷蔵庫にビールを冷やしているので、降りて取りに行きます。階段は結構急な造りです。
一人だとちょっと怖いです。
食事をする居間
大阪屋の建物は至る所に日本建築の繊細な技法が施されていて、注意深く見てみると細部までこだわった造りを楽しむことができます。
せっかくなので襖を開けて縁側に腰かけて、ビールを飲みます。
ビールを飲み終わって空缶を調理場に捨てに行くと、管理人さんから鹿の肉を食べないかと声をかけてもらえました。近所の猟師さんが獲ったらしく、ニンニク醤油と一緒にいただいたそうです。
鹿の肉は食べたことがないので、是非ともということでお願いして分けていただきました。初めてで焼き加減が分かりませんが、念のためしっかり焼いて食べてみることにしました(ここの宿では食器も貸してくれます)。
鹿肉の感想ですが、美味しいです。牛肉に似ているらしいと猟師の方に言われたらしいのですが、確かに味は牛肉と同じです。ちゃんと血抜き処理をしているからとも言われましたが、そのおかげでしょう、獣臭さが全くなく本当に美味しい肉でした。新鮮だからでしょう。焼き過ぎていなければもっと美味しいのだと思います。食感は牛肉よりも肉厚で、繊維が多いというか硬いというか、食べ応えがあるともいえます。
とても貴重な、ありがたい体験をすることができました。
部屋に戻って寝ることにします。
布団と枕に自分でシーツとカバーを付けます。ゲストハウスなので基本自分のことは自分でします。
空きっ腹でビールを2本飲んだおかげで、いつもよりも酔いが回ってきました。
この広い2階の空間で一人で寝るのは怖いので、酔っぱらってよかったです。さっさと布団に入って、旅の4日目を終えます。
次回に続く
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